脈絡のない料理 vol.11
2023年6月16日 〜 6月24日
会場 neutral(京都市北区)
人生って脈絡のない出来事の
連続だと思うんです
それが何であるかは
実はそんなに重要なことではなくて
その繰り返しや重なりが必要だから
僕らは延々と脈絡のないことを
繰り返すのです
neutral 北嶋竜樹


01 異国からの手紙
行ったこともない
会ったこともない
見たこともないし
聞いたこともない
君が誰だったのか
時々ぼくは
わからなくなる
ロシア民芸ジョストボ メタルトレイ:1880年頃 旧ソ連

02 夏色恋慕
彼女の影はどんどん薄くなっていった
燦々と降りしきる夏の太陽に照らされた
見渡す限りの青い空には
湿った感情などどこにもなかった
汗ばむ彼女の横顔に
うっすらと纏った時間が
ぼくを焦らせる
そしてまた無邪気なふりをする
根来塗汁椀:江戸時代初期

03 架空の空
黄緑色したおじさんが
ぼそぼそと呟いていた
もう随分と長い時間
地面の感触もわからないまま
ぐるぐる回っていたから
なんだか大変そうねって
一応さ、声をかけておいたよ
御深井丸 御深井焼き向付:江戸時代

04 パーセプション
たとえね、消えたとして
そのものの本質が失われるわけじゃないとぼくは思うんだ
別にズレのような差異は今にはじまったことじゃないしさ
元々抱いていたイメージより
今この瞬間に感じる新しい印象の方が
彼女にとっても僕にとっても
都合がいいことだってあると思うから
だから気にすることないよ
そんなこと大したことじゃない
波千鳥柄くらわんか膾皿:江戸時代

05 おんなじゆめと、別々のゆめ。
ぼくの言葉と、君の言葉。
ぼくのそれと、君のそれ。
それも、あれも、どれもこれも、
ほんとは何にも知らない。
一緒にいても、一緒に寝ても、
ぼくらは決まって別々なのだ。
ぼくが夜を彷徨うのは、
きみがいっつもうわのそらだから。
七寸平皿:安藤由香

06 夜の魔法
待ち侘びた既読は
次第に後悔へとすり替わる
散り散りとした言葉を前に
きっと夏のせいだと
ぼくは勢いよく水を飲んだ
乾いた心は潤せない
そんなことくらい
ぼくにだってわかってる
須恵器六寸皿:松葉勇輝

07 ダイバーシティ
ほんとはね
分けれっこないの
ぼくも、君も、あなただって
みんな分けたがるけどね
いろんなものが綯い交ぜになって
世界はいつだって可もなければ不可もない
ぼくにとっての違和感や不快感は
だれかにとっての快感かもしれないわけだから
寛容さをもってそこにある
ただそれだけのことなのかもしれない
願わくば、その思いだけを分かち合えたら
それくらいがちょうどいいのかもね
白磁大鉢 :黒田泰蔵 栗木坪杓子:大正時代

08 擬態するわたし
あなたのふりして隠れるの
きっとみんな騙されるわ
わたしが消える時
あなたの影はわたしになるの
あなたがなくしたのは影?
それともわたし?
古常滑山茶碗:平安時代