種と旅と京都、
〜風土を見直す都市の郷土料理〜
2025年3月1日(土)
会場 neutral
|べた焼きという郷土料理|
べた焼きは、関西地方、特に京都で親しまれている鉄板焼き料理で、お好み焼きのルーツの一つとされています。その起源は大正時代に遡り、当時の駄菓子屋で提供されていた「一銭洋食」と呼ばれる料理が基になっています。「一銭洋食」は、水で溶いた小麦粉の生地に刻みネギやキャベツ、ひき肉、すじ肉、こんにゃく、かまぼこ、もやし、魚粉、豆類、天かすなどの具材をのせ、ウスターソースを塗って提供されていました。
この「一銭洋食」は、当時1枚1銭で販売されていたことからその名がつき、地域や時代によって「洋食焼き」や「壱銭焼き」などとも呼ばれました。「べた焼き」という名称もその一つで、特に京都市内で庶民に親しまれてきた郷土料理のひとつです。「共生」というキーワードの中で、特別なものを使わないありふれた食材だけで構成されたべた焼きが、都市と風土を繋ぐ新しい種として、またこれからも残したい大切な食文化として、多様性に溢れる社会で新たな食文化の小さな象徴になればいいなと思っています。

|都市における食文化|
京都で料理屋をやっていると、何か食材でこだわっていることとかありますか?とか、どこで仕入れてますか?とか、そういった類のことはよく聞かれますし、無農薬であるとかオーガニックであるとかそういったことに対しても多くの人の関心が向けられていることを肌で感じることが増えたように思います。
僕は元々都内のレストランで長く働いていたので、それこそみんなが知らないような食材を求めて、ありとあらゆる業者や農家さん、産地を訪ねたりして、他にないもの、自分たちしか使っていないもの、より特別なものをと、日本中世界中から取り寄せた食材をたくさん見てきましたし、使ってきました。
今から15年ほど前くらいからでしょうか、ベストレストランが盛り上がりを見せてデンマークのnomaのようなレストランが注目されるようになってからは、地産地消という考えが逆輸入的に、より注目されるようになり、世界の珍しい輸入食材を使うステータスから、都内でも国産のものや、とりわけよりその土地で作られたものに希少性を見い出すようになり、多くのレストランで農家さんの名前や生産者さんの名前を謳うようになりました。
実際その頃からレストランではクラフトを好む傾向が増え、使う器もレディメイドの白磁のプロダクト製品から作家性の高い器を使うお店がぐっと増えた印象です。素朴でプリミティブで民藝的な質感のものが好まれ、再び注目されるようになったのもこの頃だったように記憶しています。
僕はこういったムーブメントに否定的ではありませんし、時代の中で大きな潮流があるのはいつの時代も同じです。地域性を捉えようとした結果が地元食材であり、手仕事の美にフォーカスした結果がクラフトであるわけですから、そこで生まれる価値や再び評価されることについては、非常に意義があることだと思っています。ただこういった希少性の外側には無視できない感性があるということにも意識を向けなくてはいけません。そういったものに対しての評価が低くなることには色々と思うことはありますが、これは決して大原や伏見を代表するような京野菜を否定しているのではなく、そういった特別なものがなくても京都の風土や食文化を表すことはできるだろうし、特筆するような特産がないような都市部においても根付いている食文化の種はあると思うのです。
京都で野菜の栽培が始まって1200年とも言われていますが、元々都だった京都には日本各地からたくさんの野菜が集まり、それらが京都の土地に根を生やしたことが京野菜の始まりです。地域性や多様性という側面から見ても、外来のものが長くそこにいたことで根付いた文化でもあり、仏教寺院が日本的に語られるのもその歴史の長さにあることと同様に、必ずしも在来であることだけが優位性を保つのではなく、多くのものが多様性の中で「共生」していくことこそが、未来を見据えていく上で大切なことなのかもしれません。
僕が風土について考える時、いつも頭によぎるのは自身の生まれた場所についてであり、特色のないベッドタウンで生まれ育った僕にとって、風土とは何かということに向き合うことは非常に悩ましいことでもありました。
人口10万人以上の都市は、全国の都市の約33.43%を占めています。さらに東京や大阪、名古屋や福岡といった日本の経済を牽引する都市の他、札幌や仙台、東京周辺の市区など大都市型に分類される都市は、日本の面積の5%ほどですが、全人口の44%がそこに住んでいます。そしてその周りにある僕の地元のような地方都市は日本の面積の51%を占めており、人口のおよそ47%が住んでいると言われています。
このようなデータからも日本の人口のほとんどがそういった都市部に分布しており、農村漁村部のような地域や、自然物に恵まれた環境以外の都市部において、現代の風土や食文化がどのように形成され、どうやって定着していくかということは僕にとって無視できない事柄のひとつでもありました。「種と旅と」や「種を蒔くデザイン展」に声をかけていただいて数年、農業や在来種の種を守っていくことと同時に、僕ができることや、やるべきことは何なのかという問いに向き合ってきたひとつの答えが「共生」でした。昨年と同じ言葉ですが、この共生という言葉にかける思いはこの一年でより力強くなったように思います。
その土地や風土を表すひとつの食文化の種として、特別ではないけれどそこに存在し、これからも守っていきたい何気ない料理たち。今回は京都の下町を支えてきた郷土料理のひとつである「べた焼き」をみなさんにお届けしたいと思います。
neutral 北嶋竜樹
